(ハイデッガー「存在と時間」著書の中で・・・)
現存在が生存しているとか機能をはたらかせているとかいうことを言っているのではなく、それが自分の在ることに気付いているということを言っているのである。
「今ここに私はいる」
- 子宮癌。骨転移により下半身麻痺がありベット上生活を送っている50代女性。
彼女は足が動かないことに対してずっと諦めの気持ちで入院生活を送っていたが、同日前から微かだか足が動くようになり、希望の気持ちを持っている。
- 直腸癌。骨転移により下半身麻痺がありベット上生活を送っている60代男性。
彼は足が動かないことに納得ができない。
何をしてでもいいから動くようになりたい。
動けば○○や○○になると、思いの方向が向いている。
だが動かない。
「足が動く。今ここに私はいる」と彼女。「足が動かない。今ここに私はいる」と彼。
同日の前後に、対照的な患者に施術を行い「現存在が生存しているとか機能をはたらかせているとかいうことを言っているのではなく、それが自分の在ることに気付いているということを言っているのである」の言葉が気になった。
この時のそれぞれ二人の「自己の存在と意味」はどのようなものなのだろうと考えた。
足が動く彼女は自己の存在の意味が強められ、足の動かない彼は自己の存在の意味が弱められているのであろうか。
「自分が在る」ことに気付いているのは彼女で「自己が在る」ことに気付くのは足が動かない彼のほうではないのか。
もしそうだとすると足が動かないとする彼の「自己の存在と意味」は弱められているのではなく強められているとも考える事も出来る。
ハイデッカーの存在と時間の中に「現存在のみが世界における自己の存在から身を引いて、あるいは「立ち出で」ていることができる」という記載がある。
緩和ケア病棟では一般に彼女より彼のような人のほうが多い。その際何度か見かけた光景に「立ち出での光景」がある。
ハイデッガーの存在と時間によると、「実際自分自身の存在に気付きそれに思いをめぐらせる――現存在の能力、現存在に独特の特質なのであって、したがってそれがその本質だといえるのである」とある。
60代の男性患者は施術を受けながらただ遠くを見ていた。
その姿は「立ち出での光景」に見える。
彼はこの４ヶ月間、自身の意思で、施術を受けることを決めている。
その姿は自己の存在と意味が強まっている姿ではないかと感じる。
私達は何か出来るわけではない。また何も与えられない。
だが良いコミニケーションとは何かを考えコミニケーションする事は出来る。
医者は医者であるという道具を使ってコミニケーションをする。
看護士は看護士であるという道具を使ってコミニケーションをする。
セラピストはセラピストであるという道具を使ってコミニケーションをする。
コミニケーションをとるだけで満足するコミニケーションとは何なのか。
緩和ケア病棟においてそれは「自己の存在の意味が強められる」コミニケーションでないかと考える。
コミニケーションにより患者が自己の存在から身を引き立ち出で、自分自身の存在に気付きそれに思いをめぐらせた結果とし満足したと感じる事が出来た時、それはその人の執着や捉えかたが変わることになり、結果、良い思い良い気持ちで治療を受け入れるという事に繋がるのではないかと思う。
自己の存在と意味を感じ知る状態で過ごす時間は、その人のその時間を過ごす生活としてのＱＯＬの変化に繋がる行為となるのではないだろうかと、同日2人の患者に施術を行い感じたのであった。
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