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エステコラム“ハート&ソウル”玲子プロフィール

Vol.54 - にこやかなのは辛さの嘘 -
 

(ハイデッガー「存在と時間」著書の中で・・・)
気分というものはそむけ、目をそらすことによってかえって「開示する」という――― 何かを示さない(そむける)ことによってそれを示す(開示する)とはいかなることか?

「にこやかなのは辛さの嘘」

その時々の心身の感じは、人生において避けがたい事に対して、我々の態度を大きく反映する。
開示する事からくる自己の存在の意味と消滅からくる苦痛とは何なのか。
40代女性癌患者に施術し上記言葉が気になった。
彼女は脳転移があり言葉がうまく出ないため、誰に対しても普段からにこやかな表情で「ハイ」しか言わない。
その姿は自分の置かれている世界の、避けがたい現実に目をそむけている姿に私には見えた。
多くの患者さんは気分に支配されその中の住人となっている。
住人達のその時々の心身の感じとは、私の心を自己の存在からそらせ、代わりに私を取り巻いている外界の様子へと向けるような、そうした自分の事や周囲の状況がはっきりわかる心の働きや状態の様に見える。
現存在が、世界における自分自身に気付く時は、現実のもつ変更不可能に影響されてのこと。
どんな人でも、自分の置かれている「世界の中にある」という事の、避けがたい影響を無視して、自分の置かれている世界と関わることは出来ない。
彼女がアロマセラピーを介した足のマッサージという受動的ケアを受けている際、急に感情が沸き立ち、支配され、感情が止まらなくなる事となった。
いろんな理由で抑圧され、引き伸ばされていた感情がゆるみ、ゆるんだ感情を感じても安全だとわかると、たとえその場にそぐわなくてもその感情は現れる。
だが、悲しみや苦悩を体験し、感情を湧き起し発していても、彼女が助けてもらいたがっているとは限らない。
感情を出すこと。それは再評価につながり認識することになる。
感情が一旦始まると私達は感情的になっている事を自覚するようになる。
感情にとらわれていることを意識するようになると、その状況を再評価する事が出来る。
彼女は感情的になりながら一旦落ち着き、また感情的になり、を繰り返した。
その姿を見ていた母親が、施術後、セラピストに話す感想を聞きながら彼女は天井を見ていた。
そしてその後、セラピストの顔を、笑いのない顔で目を開きくいるように見ていた。
そこに笑いやにこやかさは無い。
その事は、何かを示さないとしていた自己が、感情の表れによって、本来の情態に戻された姿。
ニコニコしていたことは嘘だった。
その笑顔、いかに辛かった。
その姿は、感じた感情に対して開示されたことを認識し再評価し、本来の自己にもどる姿に私には見えた。
私達は私達自身の生活の中で、重要であることが見出され、出てきた出来事に、感情的に反応する。
そむけられていた事実からくる苦痛。
その事を意識し開示されたその時に、触れられているという共有体験が彼女には共感になったのではないだろうか。
触れられている事、それは安全につながる。
今ある苦悩や苦痛の中に安全そして安定は感じられない。
アロマセラピーやリフレクソロジーという、手を介して相手に触れるという行為は、こちらが触れているという行為と同時に、相手もこちらに触れているという行為。
その新和作用は患者に安定を与え、不安定な状況を緩める事となるのではないだろうか。




  → Vol.55 - 罪を背負い生を生きる-
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